3. 新・農地と担い手を守り、活かす「都市農業リフレッシュ運動」推進計画
  −担い手が夢と希望と誇りをもてる都市農政の確立、
  遊休農地解消のための実践計画−
  平成20年8月
大阪府農業委員会会長会議
T趣旨
食料・農業・農村基本法においては、国は、都市及びその周辺における農業について、消費地に近い特性を活かし、都市住民の需要に即した農業生産の振興を図るために必要な施策を講ずるものとされている。また食料・農業・農村基本計画では、「新鮮で安全な農産物の供給」「農業体験・交流活動」「災害時のオープンスペース」「心やすらぐ緑地空間」などが、役割として位置づけられている。
しかるに本府では、国の施策対象となる農業振興地域の農用地区域の指定が進みにくく、転用許可基準の緩和によって農地のかい廃が進んできた。さらに現行の「農業経営基盤強化促進法」では、農地の利用希望者に対する措置や農地の流動化・集積を促すための具体的措置に乏しく、本府における遊休農地の解消や地産地消を支える小規模農家に対する支援が措置されていない。
このように、既存の法制度や国の施策は、本府の実態と乖離しているものが少なくないことから、大阪府では「大阪府都市農業の推進及び農空間の保全と活用に関する条例」を平成20年4月から施行するに至っている。
こうした中で、都道府県農業会議会長会議は平成20年2月に「第3次・農委組織活動改革プログラム」並びに、プログラム実現のための「新・農地と担い手を守り活かす運動」推進要領を策定し、組織一丸となった取り組みを展開することとした。
そこで、大阪府農業委員会系統組織では平成17年度から19度までの3カ年間取り組んできた「農地と担い手を守り、活かす『都市農業リフレッシュ運動』」を継承発展させ、「大阪府都市農業の推進及び農空間の保全と活用に関する条例」の推進に呼応しつつ、農業委員会系統組織としての活動の方向をより鮮明にし、全国統一運動を受けて「新・農地と担い手を守り、活かす『都市農業リフレッシュ運動』」(以下『新・都市農業リフレッシュ運動』という)を推進する。

U運動の基本目標(土地と人と地域)
将来にわたって農業・農地を守り、育てていくためには、農業者が農業を継続し、夢と希望と誇りを持てる取り組みを進め、そのことによって公益性の高い農地が保全され、有効利用されることが重要である。また、その取り組みは、ひいては地域住民の生活の質の向上にもつながることから、地域住民の共感を得て、身近なところに「農業」の営みがある快適で活気と魅力に満ちたまちづくりと不可分なものとなっている。
そこで『新・都市農業リフレッシュ運動』の目標は次の三点とする。
なお、この運動の推進にあたっては、農業者の公的な代表組織である農業委員会として、地域の農業・農業者の実情を踏まえ、農地と担い手の課題解決を中心に、基本目標に沿った具体的な数値目標を設定して実践活動を積極的に展開する。
1.遊休農地の発生防止・解消
大阪府内の農地の遊休化を防止し、農地の有効利用を促進して次世代に継承する。
2.大阪農業の担い手に対する経営改善支援
意欲ある担い手が夢と希望と誇りを持って農業に取り組めるよう、各地域の実情に即した担い手の経営改善支援を行う。
3.都市農業振興施策の実現と「農のあるまちづくり」の推進
都市地域の実態に応じた施策の実現をめざすとともに、「農」の持つ様々な価値を広くPRして都市住民との相互理解を促進し、希薄になった地域住民のつながりを「農」を核として回復するなど「農のあるまちづくり」を推進する。

V運動の主体
この運動は、大阪府内の実情に鑑み、全国運動を受けて、府内43市町村農業委員会、大阪府農業会議が一体となって進める。その際、関係機関・団体それぞれの活動・理念、今後のビジョン・方針等を踏まえ、連携に努める。
W運動の期間
運動の期間は、平成20年度から22年度までの3カ年間とする。なお、運動を効果的に進めるため、年度毎に点検・評価を行い、必要に応じて推進計画の見直しを行う。
X-1 市町村農業委員会の取り組み
1.基本目標T「遊休農地の発生防止・解消」
(大阪府内の農地の遊休化を防止し、農地の有効利用を促進して次世代に継承する)

(1)農地の遊休化防止、解消
@キャンペーン・PRの実施
遊休農地等の存在は、地域住民からの不評の原因となっているばかりでなく、地域農業振興の阻害要因ともなっている。また、農業界への批判とともに農地制度見直しの理由にもされ、こうした現実を農業者に周知し、様々な情報提供手法を用いて「農地は荒らさず耕すもの」という気運の醸成に努める。
※)「大阪府都市農業の推進及び農空間の保全と活用に関する条例」に基づく地域指定等のPR含む
※)垂れ幕の設置、農業委員会だより、市町村広報紙、研修会などを活用した農業者への情報提供活動を行う。
※)全国農業会議所・農業会議が作成する全国農業新聞特集号、PRポスター、リーフレット、チラシ等の配布・掲示を行う。

Aデータ整備(遊休農地の実態調査の補完)
地域ごとの農家の農地利用の現状や今後の意向等について農業委員等による総点検を行い、その結果を農地基本台帳に整備する。(具体的には国が示した農地性の判断基準や遊休農地の分類に基づいて、平成17年に系統組織運動の一環として行った「遊休農地実態調査及び今後の農地利用に関するアンケート調査」を補完する。)
また、農業委員会における農地基本台帳の整備・電子化の推進に努める。
B地域の実情に応じた対応策の検討と実践
(ア) 「農空間保全委員会」への参画
大阪府が条例に基づき設置する「農空間保全委員会」に参画する。同委員会が設置されない場合でも、農地パトロールや実態調査に基づき、関係機関・団体、地域住民と連携して遊休農地の発生防止と解消対策に努める。

(イ) 集落における農地利活用の合意形成促進
地区担当制に基づき、農業委員が主体となって、担当集落での話し合い活動を積極的に行い、その経過と結果について活動記録カードに記載する。その際、関係機関・団体の協力を得て、 例えば現場で簡易な農地利用現況図を関係者が描くことで、地権者はじめ関係者に地域の土地利用の実態を認識してもらうことが重要となる。こうしたことを積み重ねて、遊休農地解消策の検討や、 農地利用調整活動に役立てる。

(ウ) 遊休農地・地権者等の分析・把握と具体的解消モデル例示
遊休農地の解消にあたっては、上記実態調査に基づき、遊休化している原因や状況を判断し、立地条件、地権者の意向、営農の可能性、税制、土地利用規制等を含めて対象農地の分類を行う。 その上で、例えば、関係機関・団体の協力を得て、相談会や集落座談会を開いて、対象農地の担い手への利用集積、試験研究等展示ほへの活用、景観作物(花)の植栽、植林転用、福祉、教育等市民的農地利用などの推進に努める。 このほか、「耕起の日」を定めるなどして具体的に農業委員による復元利用のモデルを例示する。
(2)農地利用の監視活動の強化
@農地パトロールの実施
(ア) 農地パトロール実施要領の策定
各市町村農業委員会で独自に要領等を定め、毎年一定の時期(原則として毎年度8〜11月の間に設定)に「農地パトロール月間」を設定し、パンフレット、農地転用許可済標識、ステッカー等を活用して地域の農地利用の総点検と農地基本台帳を整備する。

(イ) 対象農地
農地法3・4・5条許可案件、相続税納税猶予特例農地、生産緑地、遊休農地等をパトロール重点対象として点検・指導に努める。

(ウ) 農地の無断転用の防止・是正指導  
「農地違反転用指導手引」(平成9年3月、大阪府農業会議)を活用し、農地法の励行指導に努める。

※)同手引きは、「農地法関係事務処理の手引き」(平成15年6月、 大阪府環境農林水産部)に再掲載。またこの運動の一環として、大阪府と協議して同手引きの見直しを検討する。

(エ) 農地転用許可済標識等の設置  
無断転用の防止・是正対策の一環として、大阪府農業会議と各地区農業委員会連合会が共同で実施している「農地転用許可済標識等」(昭和62年度〜)の設置・推進に努める。

(オ) その他、遊休農地、違反転用農地所有者等への指導徹底  
遊休農地の所有者等に対する農業委員会の指導を徹底するとともに、重なる指導によっても是正されない場合で、その農地が農業振興地域の場合には、市町村長に対する「特定遊休農地」である旨の通知要請を適切に実施する。産業廃棄物の不法投棄を含む農地の違反転用についても、その事情の調査・報告及び指導を徹底する。

※)さらに、市町村に対して環境美化条例(旧草刈り条例等)の制定、施行を促し、農地を含む環境の美化を所有者に義務づけるよう働きかける。
A農業生産法人の要件適合性の審査
(ア) 農地の権利設定における審査充実 
農地法のみならず、経営基盤強化促進法に基づく農地の利用集積に当たっても、投機的な農地取得等の懸念を払拭するため、農業委員会による審査の充実を図る。

(イ) 立ち入り調査等監視機能の強化 
農業生産法人制度の要件緩和や特定法人貸付事業の実施によって農地利用主体の多様化が進むなかで、毎年、農業生産法人に対して事業状況報告を提出させ、要件を満たさない恐れのある法人に対しては勧告や立ち入り調査等の措置を講ずる。
2.基本目標U「大阪農業の担い手に対する経営改善支援」
(意欲ある担い手が夢と希望と誇りを持って農業に取り組めるよう、各地域の実情に即した担い手の経営改善支援を行う)

(1)担い手の経営改善支援
@農業経営に意欲ある担い手への支援活動

(ア) 農業者の経営意欲の喚起 
関係機関・団体の協力を得て、農業会議が実施する「なにわ農業賞」候補者の推薦を行う。また、受賞者の体験発表の機会を設けるなどして、地域の農業者の経営意欲を喚起する研修会等を企画・実施する。

(イ) 経営類型を勘案した耕地利用率向上  
関係機関・団体の協力のもとに、担い手の経営類型を勘案して耕地利用率向上に向けた検討を行う。また、高齢化による耕地利用率の低下や遊休化が見込まれる地域において、大阪府みどり公社(農地保有合理化法人)、JAと連携し、意欲ある担い手に対して農地の利用集積を促進する。そのため、例えば他法令との関係を整理して関係者等に助言するほか、農業者へのPRを実施する。

(ウ) 認定農業者の認定促進  
認定農業者の認定の基礎となる「基本構想」策定について、市町村に働きかけ、認定農業者の認定を促進する。同時に、担い手育成のための各種支援策を実施する目的で新たに市町村に「担い手育成総合支援協議会」の設置を促し、これに積極的に参画して、地域の担い手の農業経営改善計画の作成を支援する。

(エ) 農業経営改善に向けた相談活動  
簿記記帳・青色申告、農業経営の法人化、農業者年金など、農業経営改善に向けた相談に応じるとともに、農業会議の支援・協力・助言を得て専門家の派遣を要請するなどして、経営支援を行う。

3.基本目標V「都市農業振興施策の実現と「農のあるまちづくり」の推進」
(都市地域の実態に応じた施策の実現をめざすとともに、「農」の持つ様々な価値を広くPRして都市住民との相互理解を促進し、希薄になった地域住民のつながりを「農」を核として回復するなど「農のあるまちづくり」を推進する。

(1)都市農業振興施策の実現
@農業経営に意欲ある担い手からの意見の積み上げと都市農政運動の展開

(ア)担い手からの意見の積み上げ
一定の時期(原則として毎年度12〜2月の間に設定)に農業経営に意欲を示す担い手と農業委員の意見交換会を開き、課題と対策についての取りまとめを行う。

※)地区担当制を基本に農業委員の世話役活動の一環として、担い手の意見を集約する。
※)基本構想策定市町村は、意欲ある担い手=認定農業者

(イ)異業種関係者との意見交換
消費者・商工等異業種関係者との懇談機会を農業者に提供し、合わせて地域農業の振興に向けた幅広い意見の積み上げに努める。

(ウ)建議、政策提案
上記の活動をベースに、市町村長等への建議や意見の公表等に反映させる。また、農業会議を通じて全国の農業委員会会長大会等への積み上げを図る。

※)農業委員会自らが何をするかを含めた具体的な建議や政策提案活動を行う。


(2)「地産地消」と「食農教育」の推進
@「地産地消」の推進
高齢農家や兼業農家の営農意欲を喚起し、また農産物を通して地域住民との交流が深まるよう、JA等関係団体等が推進する「地産地消」の取り組みに協力する。
A「食農教育」の推進
農業委員会系統組織のこれまでの運動で得た蓄積をもとに、JA、市町村、教育委員会と協議して「食農教育」に引き続き関わるとともに、米を中心とする地元産農産物の学校給食への導入をめざす。

(3)援農・体験農園のPRと推進
@人材育成
大阪農業を活性化させるには、産業・文化を担い、継承する人材とそれを支える「生活の場」の確保が必要である。そのため、人材を農業内部だけに限定することなく、広く都市住民の中にもその文化や技術を伝承することを期待し、民間企業やNPOなど新たな支援グループと地域住民が連携して都市農業を守って行くことを念頭に援農・体験農園の担い手を育成する。
A「農業体験農園」開設等、府民のニーズに応える活動と交流の促進
市民農園、「農業体験農園」等のノウハウの積み上げと、消費者・地域住民との交流の促進を図る。

(4)環境維持・保全活動
@防災農地登録制度の推進
大阪府が進める防災農地登録制度の導入を図り、地域の農業者へのPR活動などを実施する。
A異業種交流の推進と農委活動のPR
消費者団体、学校関係者、栄養士や地元の商工関係者を対象に現地見学会、フォーラム等、地域の農業・農委活動のPRを行うとともに、担い手に異業種交流の機会を提供する。
X-2 市町村農業委員会における運動の計画策定と進行管理
1.優先順位の明確化
運動の実施にあたっては、各市町村の実情を踏まえ、「具体的に、何にどう取り組むか」の優先順位を明確にするとともに、大阪府農業会議並びに市町村、JA、大阪府農と緑の総合事務所等との密接な連携を図る。
2.推進計画の策定
運動の取り組み目標と具体的な進め方、実施時期、役割分担、強調月間や重点実施地区の設定などを内容とする推進計画を策定する。また、農業委員会総会における「『新・都市農業リフレッシュ運動』の推進に関する申し合わせ決議」を行う。

※)農業委員一人一人の日常活動の担当地区と活動内容を明確にする。
※)運動の取り組み目標と重点は、各市町村の実情を踏まえ、それぞれ独自に調整する。
3.点検・確認
運動の推進状況について、毎年度点検・確認を徹底するとともに、状況変化に応じて計画の見直しを図る。
Y大阪府農業会議の取り組み
市町村農業委員会の運動の取り組みを支援・助長するため、関係機関・団体との連携を密にし、以下の対策を実施する。
1.推進体制の確立
農業会議員による府内食料・農業事情視察を引き続き実施し、各市町村の実情を把握する。さらに、大阪府、大阪府みどり公社、 JA(連合会)組織等の関係機関・団体との連携のもとに、運動を各市町村の実情を踏まえ、きめ細かく推進していくため、事務局職員の市町村巡回を強化するなど推進体制の整備を図る。
2.推進計画の策定と申し合わせ
各市町村農業委員会会長会議の承認を得て、本計画を決定する。また、大阪府農業委員大会での運動の推進に関する申し合わせ決議を行う。
3.運動の基本目標に即した農業委員会への支援・協力・助言

(1)遊休農地の発生防止・解消
@情報提供
全国農業新聞地方版、ホームページ、リーフレット、チラシ等を活用し、農業委員会を通じて農業者等に様々な情報提供を行う。
A農地パトロール・集落の話し合い活動促進
農地パトロールや農地利用調整、和解の仲介、各種制度等について、実践的な研修会を開催する(農家の意向把握や農用地利用現況図の作り方、集落の話し合いの進め方等について、重点農業委員会の協力を得て実践的な研修を行う)。
B農作業受託組織の育成に対する協力
高齢化による耕地利用率の低下や遊休化が見込まれる地域において、農業委員会がJAと連携して農作業受託組織の育成を行う場合に協力する。

(2)大阪農業の担い手に対する経営改善支援
@農業経営に意欲ある担い手の意向把握・支援活動
農業委員会と意欲ある担い手の意見交換会の進め方、取りまとめ、意見の公表・建議等の実施手法について農業委員会へ助言・協力を行う。
A建議、意見の公表、政策要望
上記の活動をベースに、府内の農業委員会が市町村長等への建議や意見の公表等を行う際に適宜、助言・支援する。また、各市町村での運動成果の確認や政策要望等のため、大阪府農業委員大会(10月)、農業委員研修を開催する。また、全国農業委員会会長大会(5月)及び全国農業委員会会長代表者集会(12月)に参画する。
B農業経営者の経営意欲の喚起
「なにわ農業賞」を引き続き実施し、農業経営者の顕彰を行う。また農業委員会、地区農業委員会連合会が主催する研修会を支援する。さらに、サラリーマン子弟の就農相談にも積極的に関与する。
C担い手育成総合支援協議会等への参画
担い手育成のための各種支援策を実施する目的で設立される「大阪府担い手育成総合支援協議会」に参画し、地域の担い手の農業経営改善計画の作成に対する支援・協力の取り組みを徹底するほか、認定農業者の認定促進、農地の利用集積、基本構想策定促進、法人化支援に取り組む。
D農作業受託の促進、農地の利用集積についての農業委員会への協力
農業委員会が関与する農地の利用集積促進について支援・協力する。

(3)都市農業振興施策の実現と「農のあるまちづくり」の推進
@地域に根ざした農政運動の展開
農地利用の再点検・話し合い運動や認定農業者等意欲有る農業経営者の意向を踏まえた課題と対策を整理するとともに、意見の公表等により具体的な施策に反映させる。
また、必要に応じて、消費者・商工関係者等も含めた食料・農業・農村のあり方についてのシンポジウムやフォーラムを開催する。
A農業委員会と消費者団体等との交流の支援
消費者団体、学校関係者、栄養士や地元の商工関係者を対象に、農業委員会、各地区農業委員会連合会が開催する現地見学会、フォーラム等、地域の農業・農委活動のPR、農業振興に向けた幅広い意見の積み上げの場の設定等を支援する。

(4)情報提供
運動の推進のため事例の収集に努め、情報の提供、農業時報でのキャンペーン、リーフレット等の作成・配布を行い、市町村段階の取り組みに対する支援・協力を行う。

(5)運動の点検・確認
運動の推進状況の点検・確認を行い、状況に応じて推進計画の見直しを行う。